豊高校長室だより

2022/3/22(火) 3学期終業式で「『謝る』を考える」という話をしました。

 今回もリモートでの終業式となりました。それでも大きな事故もなく年度末を迎えられたことを喜びたいと思います。

 さて、年度の締めくくりに、「『謝る』を考える」という話をします。

 豊高では滅多にありませんが、それでも時々は生徒が叱られている場面に出会うことがあります。聞いていて、謝り方が下手だなと思うことがあります。

 きょうはこれを日本語の語法から考えてみたいと思います。

 食卓でしょうゆを取ってほしいと、近くの席の人に頼む場面です。相手との関係によって頼み方はいろいろですが、「しょうゆ」と言えば取ってくれる関係もあるでしょう。これでも「しょうゆを取ってほしい」という情報は伝わります。

(a)「しょうゆ取って」

(b)「しょうゆを取ってくれませんか」

(c)「すみません、しょうゆを取っていただけますか」

 3つとも伝わる情報はかわりません。文が長くなっただけです。文が長いあとの例のほうがていねいに聞こえると思います。文を長くすると、なぜていねいに聞こえるのでしょうか?

 相手に何かをしてもらうことは、負担をさせることでもあります。相手に一方的に負担させるのは落ち着かないものです。プレゼントをもらうとうれしい気持ちだけでなく、お返しに何かしたくなるものです。相手が負担に感じていると思うだけでこちらも負担感が大きい。相手の負担とこちらの負担はプラマイゼロになると気持ちが安定する、ということです。

 ことばの上でその負担感をプラマイゼロに近づける語法として「語気緩和語法」があります。「ちょっと、しょうゆを取ってもらえませんか」というように「ちょっと」ということばを付け加えて「あなたの負担はごく小さいですよ」というサインを出したりします。頼む内容によっては、ただお願いするのではなくことばをつないで説明したりします。ギフトのラッピングと同じ。ラッピングしてもしなくても中身は変わりませんが、手間をかけて包むことでていねいさ増し増し、相手への気遣いを表すということです。ことばの上でラッピングするのが「語気緩和語法」です。

 「しょうゆを取ってください」よりも「しょうゆを取ってくれませんか?」と疑問の形にする方がていねいに聞こえます。判断を相手に預ける言い方だからです。頼まれた人に受けるかどうかを選ぶ余地がないと、一方的な命令に聞こえます。命令は会社の上司ならともかく、通常の人間関係には使えません。ですから、頼みごとをするとき「〇〇(決定)になりました」「〇〇してください」という表現を使うのは避けた方がいいでしょう。頼みごとのレベルによって、疑問形にしたり、「ご都合はいかがでしょうか?」を付け足したりして、相手に決定権があることを伝えます。

 相手は、自分を気づかってくれた、大切にされていると感じ、無茶なお願いでなければ快くお願いを聞いてくれると思います。

 ことばの順序も大切です。

(d)「大変申し訳ありませんが、夏休みの課題が終わらなくて、少し遅れます。」

(e)「夏休みの課題が終わりません。少し遅れて出してもいいですか。大変申し訳ありません。」

 この二つを比べたとき、どちらも「申し訳ない」という謝罪と「締め切りに遅れる」という見通しを伝えていて、順番が逆になっているだけで提出している情報はおなじ。それでもあとのほうがよりていねいに感じられるのはなぜだと思いますか。

 あとの(e)には「相手の決定権」を入れてあることにすぐ気づくと思いますが、それだけではありません。実は、順序が入れ替わっているだけでなく、文の構造も違っています。違いは、「申し訳ありませんが」と文が終わらずに後に続くのに対して、「申し訳ありません」が一つの独立した文になっているところです。

 「申し訳ありませんが」が、先ほど説明した「語気緩和語法」になっています。文法では次に続く文にかかる文を従属節といいます。従属節は脇役で、主文によりかかっている、と思ってください。日本語では文の中心は述語(動詞など)にありますから、文の後ろのほうに重要な部分がきます。聞いた人も従属節より主文のほうがより重要と受け取ります。従属節にしたことで謝罪が軽く聞こえ、語気緩和のために付け足した印象になり(主文)遅れることを連絡してきたという印象になります。聞いた人には「遅れたことを謝りもしないで、悪いと思っていないんじゃないか?」という感情に結びつくことが多くなります。

 余談ですが、この話を応用すると、頼まれごとを引き受けるとき、「やってみますが、むずかしいと思います」と言うと、やる気のない人間と思われやすく、「むずかしいと思いますが、やってみます」と言うと、困難なことに果敢にチャレンジする好青年という印象を受けます。試してみてください。

 きょうは文法から謝罪のことばを考えてきました。相手の印象は話だけでなく、外見などいろいろな要素がありますが、謝ったのに「なんだ、その謝り方は」と怒らせてしまったことがある人は、話の順番を変えてみるところから始めたらどうでしょうか。

 4月には新入生も入ってきます。上級生として胸を張れる行動をお願いします。始業式にみなさんとお会いできることを楽しみにしています。